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東京高等裁判所 昭和26年(う)1385号 判決

控訴人 被告人 依田嘉邦及び弁護人 鴛海隆

検察官 田辺緑朗関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人鴛海隆、同原玉重の控訴趣意は、同各弁護人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

弁護人原玉重の論旨第二点の二及び弁護人鴛海隆の同第三点について。

前記渡辺勇男の供述によれば、前記各供述調書は、検事が棚田太一並びに被告人を取調べた後同人等の面前において検事の口述するところを録取したものであることを窺い得るけれども、凡そ検察官は犯罪を捜査するについて必要があるときは、被疑者その他の者を取り調べ、その供述を調書に録取することができることは刑事訴訟法第百九十八条第二百二十三条の明定するところであつて、その録取の方法については法規上別段の制限がないから、取り調べをした検事が自ら録取し、又は検察事務官をしてこれを録取させることもできるものと解すべく、而して検察事務官が検察官に附属して被疑者その他の人の供述を書面に録取するについては直接供述者の検察官に対する供述を書面に録取すると検察官の口述するところを書面に録取するとを問はず、いずれの方式によるにせよ、検察官に附属して書類の作成に当つた検察事務官の作成した被疑者その他の者の供述調書たるに差支えないものといはなければならない。(裁判所構成法第九十一条第四項、裁判所法第六十条、検察庁法第二十七条参照)従つて前記渡辺勇男が作成した棚田の供述調書は刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号の書面に、又被告人の供述調書は同法第三百二十二条の書面に該当するものと解するを相当とすべく従つて論旨は到底採用することができない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中董 判事 川本彦四郎 判事 中村匡三)

弁護人原玉重の控訴趣意

第二点原判決は法令に違反する訴訟手続によるもので其違反が判決に影響を及ぼしていること明なものであります。即ち原判決に於ては証拠として(一)被告人の第一審公廷に於ける供述(二)同人の検事に対する第一、二回供述調書(三)証人棚田太一同西沢喜三同島田昌男の第一審公廷に於ける各供述(四)棚田太一の検事に対する供述調書を挙げてありますが、右の内(一)と(三)は金五万円也を依田嘉邦より棚田太一に渡したと云う事実其他判示理由中選挙のこと等犯罪構成要件に直接関係のないことのみで重要な有罪判決の構成要素たる授受したる金銭の趣旨即ち公職選挙法第二二一条第一項第一号の所謂買収の意思を以て報酬及運動金を渡したか否の点についての証拠たり得るものは右証拠の内(二)及(四)のみであります然るに右(二)及(四)は左の事由により証拠とならないものであるが、原判決は刑事訴訟法第三章第一節の各法律に違反し証拠とならざるものを証拠として有罪判決をしたものであります。

二、前記調書は原判決には検事に対する調書として掲示してあるが、真実は然らず右調書は何れも検事が取調べを受けた者の前で供述し之を事務官が録取したものであり刑事訴訟法第三二一条第一項第二号の検事の面前で何人かが供述したことを録取したものではない。右の事実は第一審公廷の証人渡辺勇男の証言で明かであり、又現今日本中何れの検察庁でも用いられている所謂口授して調書をとるの方式である右は取調べを受ける者の自からの直接の言辞でないから時に難解の文句を用ひ法律的専門の字句を使用され供述者の思わざる以外の調書ができることが往々あつて之が公廷でも問題となり、被告人には常に不当に不利益な結果を受けることになる本件調書に於ても結局右の如き方式で作られたから供述者の意に反する調書が出来ているのであります。即ち本件調書は渡辺証人の証言の通り供述者の面前で検事が口授し事務官がこの検事の供述を録取したもので刑事訴訟法第三二一条第一項第二号の書面又は被告人の自白調書ではなく同第三号の書面で被告に於て反対している以上証拠となるべからざるものである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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